EC冥利
代表の酒井です。EC運営を10年続けていますが、日々のお客様からの問い合わせについて考えない日はありません。学校では良い成績を取れば優やA評価、悪い成績を取れば評価が下がります。経営者も同じで売上や利益の具合を通信簿に例えることがよくあります。良い結果が出れば頑張った、悪い結果が出れば努力不足。学校では先生が用意した試験や基準が評価の基になり、経営者のそれはお客様にどれだけ支持され、お金を支払っていただけたかが評価(売上、利益)に繋がります。となればお客様に対してどのように対応すれば良いかが、売上や利益を上げるために考えなければいけないこととなります。事業や商売をするのであれば当然のことなのですが、近年のインターネットの普及で非対面でモノやサービスを販売することが多くなります。非対面ですのでお客様とのコミュニケーションはメールや電話がほとんどで、対面だったら可能だった笑顔や疑問の表情や、紙の資料を使って相互に確認しながら話をするということができません。それゆえ微妙な文章の言い回しや電話での言葉遣いに注意を払うことが必要になります。一般的なビジネス文章の書き方や定型的な電話の対応方法はネットで調べればたくさん出てきますので、便利なので私もよく利用しますが、自社の商品やサービスについての問い合わせについてはやはり自分で考えなければいけません。
よく「クレームをつけるお客様はファンになってくれる可能性が高い」と言われますが、ネット通販でもそれは同じです。せともの本舗のお客様でも、最初の問い合わせのときには激怒されて心が折れるほどの文章を送ってこられたり、電話で開口一番に怒鳴られることがあります。当店に非があれば仕方ないと思えますが、配達業者のミスや商品の特性上致し方ない場合は、どのような対応が最善かを短時間で判断しなければいけないので大変です。特に陶磁器は火の芸術とも呼ばれ、量産品であってもその日の気温や湿度など天候によって左右され、同じ窯で焼かれた同一ロットでも微妙に釉薬の色や垂れが変化します。もちろんサイト上には画像や文字で注意書きをして理解を促していますが、いかんせん現物を手に取って購入されているわけではありませんので「イメージと違った」という問い合わせは日常茶飯事です。
ではこれにどう対処するのが最善か、というと明確な答えはなく、ネットで調べてもヒントはあっても答えはありません。なぜ答えが無いかというと、お客様によって購入された商品も違えばタイミングも利用方法も異なるからです。そのお客様が何を不満に感じてらっしゃるのか、問い合わせによって何を希望されているのかは、その内容(メールや電話)から読み取るしかありません。ECを始めた当初は本当に面喰いました。今までアルバイトや会社員として対面での接客の経験はありましたが、文章だけ送られてきて対応を迫られることは無かったからです。慣れないうちは結構心が痛みました・・・なんて理不尽なお客様だと。もうECは辞めよう、やっぱりネット通販には限界がある、対面販売に切り替えよう、と何度も思いました。10年前のEC業界といえば国内では楽天がダントツで売る力があり、アマゾンはアメリカでは猛進していましたが日本ではまだ認知度を上げる段階で、まだまだ「本屋」のイメージが強かった時期です。「宅配クライシス」や「アマゾンショック」「アマゾンエフェクト」という言葉は存在していませんでした。ネット通販を利用した詐欺やいたずらも頻繁にニュースになったり、クレジットカードを含む電子決済の信頼性も今より低く、EC業界が今後広がるのか淘汰されるのか、懐疑的な議論が多くなされている状態でした。先が読めない不満や「和食器はネット販売には向いていない。写真だけで商品の詳細が伝わるワケがない」という陶磁器業界の定説もあり、限界を感じていたことも相まって辞めるなら早い方が良い、と考えていました。
結局現在までEC業界にどっぷり浸かっていますが、続けて来れた理由は「お客様からの感謝の言葉」です。事業を運営するにあたって最も励みになるのはやはりお客様がいらっしゃることです。日々辛いと感じることの方が多いですが、お客様から良かった!助かった!いい買い物ができた!と言っていただけることがどれほど疲弊した心を癒してくれるか。ECをやっていてこれほど冥利に尽きることはありません。ECと言えども当社は小売業ですので、実店舗やレストランの運営と同じく、お客様のためになったと実感を味わえる瞬間が最も嬉しいです。あるお客様からは「子供が修学旅行で買ってきてくれたお土産を過って割ってしまったのですが、ネットで商品の特徴を入力したらせともの本舗さんのサイトで同じ商品を見つけてすぐに購入させていただきました。おかげで記念の品を失ってしまった悲しみが和らぎました、本当にありがとうございます。」というメッセージをいただいた時はスタッフ一同とても幸せな気持ちになりました。こういうことがあるので中々辞められないのです。